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ヒメギフチョウ

Luehdorfia puziloi inexpecta

スプリング・エフェメラルと呼ばれる春の一時期にのみ姿を現す生物たち。

日本で最も有名なものといえばおそらくカタクリではないかと思うが、昆虫界においてはギフチョウ、そしてヒメギフチョウがその最たる例と言えるだろう。 山野にいち早く春を告げるその美しい姿から"春の女神"とも呼ばれるが、その艶やかな装いは実は迷彩服でもある。

落ち葉の積もった春先の林庄はコントラストが強く、黄色と黒のダンダラ模様は驚くほど目立たない。

一見して何もいないように見える林に日が差し込んだ瞬間、どこからともなく現れる女神の姿に多くの虫屋は心魅かれるのである。

 

2006年4月30日 長野県岡谷市 EOS20D EF100mmMacroUSM 1/400 f2.8 ISO100

コツバメ

Callophrys ferrea

年に一度、春にのみ姿を見せるシジミチョウ。 大抵は日当たりの良いところでテリトリーを張っていて、時折動くものがあると目にも留らぬ速さで追いかけていく。 十分に美しいチョウだと思うのだが、ちょうどこの頃は大スターであるギフチョウの発生期と重なるためその副産物とされてしまうことが多い不遇の君でもある。 ギフチョウを春の女神、ウスバシロチョウを春の舞姫と例えるのならば、さしずめコツバメは春のお転婆姫あたりが妥当だろうか。 活発に活動する彼らの姿を見ているとこちらまで元気になってくるような、そんなチョウである。

 

2005年4月24日 長野県茅野市 EOS20D EF100mmMacroUSM 1/200 f5.6 ストロボ ISO100

スミナガシ

Dichorragia nesimachus

渓流沿いの林道を歩いていると、足もとから突然黒っぽいチョウが飛び出してきて、近くの葉裏に潜り込んだ。 ゆっくりと近づいてその場所を覗き込む。チョウの正体はスミナガシだった。 逆光で透けた白い斑紋がアクセントとなって、その端正なシルエットを際立たせる。墨流しとはもともと伝統的な芸術技法のひとつだそうである。 本種の名はその模様を墨流しに喩えたものだと言われており、この名をつけた先人はよほどネーミングセンスの良い人だったのだろう。 しかしその美しい模様を写真で忠実に再現するのは難しく、今のところ私の手元には納得できるスミナガシの写真が一枚もない。 あの美しい翅表を写し取ることができるのは一体いつになるのだろうか。

2005年7月31日 長野県諏訪郡 EOS20D EF100mmMacroUSM 1/160 f2.8 ISO100

メスグロヒョウモン

Damora sagana liane

「昔の安曇野が残っている場所があるから行ってみない?」知人にそう言われたのはクロシジミの撮影をしてひと段落ついた頃合いだった。

昔の安曇野と言われてもピンとこなかったが、自分の知りえない部分であったので興味が湧く。

十八番の安請け合いをして案内してもらった場所は、立派な道路から少し入った田んぼの脇。

猫の額ばかりの狭い範囲には詰め合されたかのようにシモツケソウやクガイソウ、ナンテンハギが密集して咲き、周囲には沢山のヒメシジミやヒョウモン類が舞う。

時折新鮮なアサマシジミもごく当然のように姿を見せた。

以前の安曇野、いや日本のどこにでもあったであろう風景。いつの間にか消え去り、自分の記憶には存在しない風景。

目の前の光景に感動しながらも、頭の片隅ではかつての里山へと思いを巡らせていた。

 

2007年7月3日 長野県北安曇郡 EOS5D EF100mmMacroUSM 1/500 f2.8 ISO200

キタテハ

Polygonia c-aureum

10月も半ばを過ぎれば早晩は冷え込み、次第に近づく冬の気配も色濃くなってゆく。

天高く澄みきった青空の下、例え寒さに強いキタテハが元気に飛んでいても、その翅に目立つ痛みを見てしまえば昆虫の季節が過ぎ去っていくことを意識せずにはいられない。

爽やかな写真を撮りたいと思うのであれば、もっと奇麗な個体を見つけて青空に抜いてしまうのがいいのだろうが、 このときは枯れかけた花壇とボロボロのキタテハが妙に合っていてそこまでの考えは回らなかった。

 

2006年10月28日 長野県茅野市 EOS20D Sigma15mm F2.8 EX DG DIAGONAL FISHEYE 1/200 f11 ストロボ ISO100

クロヒメヒラタタマムシ

Anthaxia reticulata shinano

春になると、タンポポやキジムシロといった黄色の花にこの小さなタマムシ達の姿が目立つようになる。 体長はせいぜい7~8mmといったところで、タンポポ一輪の上に4、5匹の姿を認めることも珍しくない。 これほどまでに彼らが身近な存在であるのは植林されたカラマツの影響によるものだと思う。 幸か不幸か、人の手により少なくなる昆虫もいれば、本来の数よりも多くなる昆虫もいるのだ。 里山環境に見られる昆虫というのは得てしてそんな人の手によって作られた環境を利用して生きているものばかりなのだろう。同じタマムシでも玉虫厨子で有名なヤマトタマムシは山梨の旧長坂町あたりまでは普通に見られるのだが、諏訪ではいまだかつて目撃をしたことすらない。 こちらはどうやら冬の寒さに阻まれて諏訪までは進出できなかったようである。

 

2005年6月4日 長野県諏訪郡 EOS20D MP-E65mmf2.81-5xMacrophoto 1/100 f8 ストロボ ISO100

アカジマトラカミキリ

Akajimatora bella

夏も終りに近づき、風の中には微かに秋の気配が感じられるようになったころ、アカジマトラカミキリはその美しい姿を見せる。

初めて見たのは中学生の頃だっただろうか。学校帰り、薄暗くなった鎮守の森の中で一際目立つその赤は、ある種異様な雰囲気を漂わせていた。

アカジマトラカミキリのホストはケヤキである。諏訪大社が近いためか我が家の周辺にはケヤキの古木が多く、本種にはその後もたびたび出会うこととなった。

あまり話題にのぼる事のないカミキリムシだが、その色彩と姿は実に魅力的だ。

 

2005年10月10日 長野県諏訪郡 EOS20D EF100mmMacroUSM 1/200 f11 ストロボ

アキタクロナガオサムシ

Apotomopterus porrecticollis

冬の昆虫採集法の一つにオサ掘りというものがある。 読んで字の如くオサムシを土中や朽木の中から掘り出すことだが、これが結構難しくて未だに勝手がわからない。 だがそんな下手糞でもたまに見つけることができたのがアキタクロナガオサムシだ。 季節柄小さな虫ばかり見ていたこともあり、朽木の中から大きなオサムシが出てきたときの嬉しさといったらなかった。 オサムシは漫画家、故・手塚治虫氏のペンネームの由来ともなった昆虫である。

後翅が退化して飛べない種が多く、それゆえ地理的な変異が激しいオサムシ類はコレクターも多い人気の分類群だ。

しかし、随分と長い間私はオサムシの"オサ"というのが何を指し示しているのかを知らなかった。

その"オサ"の由来を知ったのは確か高校生の頃だったと記憶しているのだが、なんでも機織りに使う道具である筬というものがその語源とのことであった。このアキタクロナガオサムシではそれほどでもないが、確かにアオオサムシやオオオサムシでは上翅の彫刻に機織りを連想させるものがある。

 

2006年2月25日 長野県諏訪郡 EOS20D EF100mmMacroUSM 4sec. f9 ストロボ ISO100

カブトムシ

Allomyrina dichotoma

数ある昆虫の中でもその知名度においてカブトムシに敵うものはものはそうそうないだろう。 甲虫の代表格にして夏の定番、それがまさにカブトムシであった。 しかし最近はその存在感が随分と薄くなってしまったような気がする。 ある意味狂気的とも言えそうなクワガタムシブームの到来、そしてなによりも外国産のカブトムシが生きたまま売られる現状ではそれも仕方がないのかもしれない。 だがその一方で、養殖された本土産のカブトムシが本来棲息するはずのない北海道で野生化したり、 固有の亜種を産していた沖縄でも野生化、遺伝子汚染の可能性が叫ばれるなど問題も多く、人によって迷惑被っている一番の虫は実はカブトムシなのかもしれないとも思う。

私自身は最近もう少し日本のカブトムシを見直してみてもいいのではないか、そんな事を考えるようになった。 確かに外国産カブトは大きいが、実際に野外でその生活を見るのは至難の技だろう。 だが、日本のカブトムシならそれも不可能ではないし、何より見ていて面白い。 だから…たとえ外灯の周りにいるのがカブトムシばかりだったとしても、腹いせに森に投げてみたりするのはもうよそうと思う。

 

2006年7月9日 長野県岡谷市 EOS20D EF100mmMacroUSM 1/3 f8 ストロボ ISO400

ハンミョウ

Cicindela chinensis japonica

漢字では斑猫と書いてハンミョウと読む。 確かに体は派手な斑模様で動きは猫のようだし、随分と観察力の優れている人が名前を付けたのだろうと思う。 だが、ハンミョウという言葉自体はずいぶんと古くから存在しているようで、かの正倉院の所蔵にも中国産の"はむみょう"があるという。 もっともこちらは漢方薬として持ち込まれたものであり、その中の主だったものはツチハンミョウ科のゲンセイ類との話だ。 もともと"はむみょう"はこうしたゲンセイ類などのことを指していたが、どこかで間違って派手な甲虫をハンミョウと呼ぶようになり、現在の形に落ち着いたようである。

日本産のハンミョウとしてはこのハンミョウ(ナミハンミョウ)とオキナワハンミョウのみが例外的に美しい色彩をしているが、これも一種の保護色だと考えられている。 あの派手な色も直射光の照りつける荒地では地面と紛らわしく、散在する白紋は体を分断してその輪郭を消すことに役立っている。

派手でいて目立たない。自然の造形はなんとも不思議なものだ。

 

 2006年5月14日 長野県諏訪郡 EOS20D EF100mmMacroUSM 1/250 f8 ストロボ ISO100

コクワガタ

Dorcus rectus

5月の中旬から下旬、新緑というにはいささか色が濃くなりすぎたかと思うような時期になると、いつもその年初めて活動しているコクワガタに出会う。 ある意味ありふれたクワガタムシなだけに夏には大した感慨もなく通り過ぎてしまう存在だが、やはりその年の初見というのは特別なものだ。 毎年その時期が来て出会えないでいると不安になるし、出会えたのならばまるで旧友に出会ったかのように安心した気分になれる。

2006年6月17日 長野県岡谷市 EOS20D EF100mmMacroUSM 1/6 f7.1 ストロボ ISO400

カワトンボ

Mnais pruinosa

本種は予てよりの懸案を抱えているトンボである。 というのも、以前はカワトンボという一種だと考えられていたこのトンボにはほとんど見分けがつかない別亜種、別種が混じっているということが最近の研究で報告されているからだ。 この項を書き起こすにあたってもそのあたりがネックとなってきたのだが、ここでは便宜的にカワトンボMnais pruinosaという種として片づけてしまうことにした。

トンボというと盛夏から秋にかけての昆虫というイメージがあるが、実際には春にしか発生しないものや成虫で越冬する種類もいて、意外にも一年中見ることができる昆虫だ。 このカワトンボもまた春~初夏にかけての一時期にのみ見られるトンボで、流れの緩やかな小川のほとりなどでよく見かけるが、どうも先入観が強いのかその存在に気づく人は少ないようである。

 

2005年6月26日 長野県諏訪郡 EOS20D EF100mmMacroUSM 1/500 f2.8 ISO100

タカネトンボ

Somatochlora uchidai

タカネトンボと聞いてピンとくる人はそう多くはないだろう。 高嶺という名に反して結構標高の低い所にも分布しているし、場所によっては個人の庭にやってくるということもあるという。 それでもなお彼らがメジャーになれないのは、一般的なトンボのイメージとは違う、薄暗い池を好むことに理由があるのだろうか。 この写真はアンダー気味になってしまったのでエゾトンボ科の特徴であるメタリックグリーンこそ出なかったが、少しブレたことが効果的に働いてタカネトンボらしい雰囲気が撮れたと思う。 英名はEmerald。 仄暗い森の中、その瞳は怪しい輝きを放つ。

 

2005年月11日 長野県諏訪郡 EOS20D EF100mmMacroUSM 1/125 f5.6 ストロボ ISO100

ナツアカネ

Sympetrum darwinianum

黄色く色づいたイネと真っ赤なアカトンボ。 間違いなく定番の組み合わせではあるが、これほど明快に季節感を出してくれる組み合わせというのもそう多くはないかもしれない。

ナツアカネの産卵スタイルは連結打空産卵といわれ、黄金色の田んぼの上でフワフワと上下運動を繰り返す方式で行われる。 見ている限りでは簡単に撮影できそうな感じなのだが、実際にやってみるとこれが案外難しくて、ついつい長居をしてしまうのである。

 

2006年9月24日 長野県岡谷市 EOS20D EF180mmMacroUSM 1/1000 f5.0 ストロボ ISO200

キバネツノトンボ

Ascalaphus ramburi

トンボと名は付いているがトンボではない。 分類上はアミメカゲロウ目(旧称 脈翅目)に分類されている昆虫で、分かりやすく言ってしまえばアリジゴクの親戚である。 この仲間は夜行性の種類が多いのだが、キバネツノトンボはその中でも例外的に昼行性で初夏の草原を颯爽と飛び回る変り種だ。 鮮やかなレモンイエローの翅も美しいし、正面から見た毛むくじゃらの顔や、大きく発達した特徴的な触覚も可愛らしい。

キバネツノトンボが好むのはある程度草丈のある開けた草原である。 以前であればこうした環境は田畑の土手や畔といった部分が担っていたのだが、現在はそうした場所はずいぶんと減ってしまった。 それに伴い、こうした環境に生息する生き物たちの多くは著しく減少し、もちろんキバネツノトンボもその例外ではない。 この写真を撮影した場所も2007年の夏には重機が入り、無機質な駐車場へと姿を変えた。 里山という人間が作り出した環境を利用して繁栄してきた昆虫たちの趨勢は、今や我々人間の手に委ねられているのかもしれない。

 

2006年6月4日 長野県茅野市 EOS20D EF100mmMacroUSM 1/80 f5.6 ISO100

エサキモンキツノカメムシ

Sastragala esakii

カメムシ類には産卵後、卵や若虫を保護する習性を持つものが数多く知られている。 このエサキモンキツノカメムシは最も有名なものの一つで、初夏から夏にかけてミズキの葉の裏で卵塊を守っている姿を見つけることができる。 この虫の知名度が高い理由としては見つけやすいとこともあるが、成虫の背中にあるハートマークが愛情というものを連想させやすい、そんなところがこの虫を有名たらしめているのだろう。 メスは卵塊の上に陣取り、近くにやってくる外的から卵や若虫を保護する。この個体が抱えているのは既に孵化した二齢若虫達だろう。 子供達はこのあと親元を離れ、ミズキの実等を吸収して成長していく。

 

2006年7月30日 長野県諏訪郡 EOS20D EF100mmMacroUSM 1/250 f11 ストロボ ISO100

アカスジキンカメムシ

Poecilocoris lewisi

随分と長い間、憧れの存在だったカメムシである。 その美しい姿から切手のデザインにも採用され、どの昆虫図鑑を開いてもこのカメムシの姿をすぐに見つけることができる。 大抵の図鑑には「フジやミズキなどにつく」としか書かれておらず、また本によっては普通とも記してあったのだが、いくら野山を歩いてみてもこのカメムシの姿を見つけることはできなかった。

初めて出会えたのは進学のために東京に出てからであった。 実習で訪れたキャンパスの中で、目の前の友人の肩に飛んできたのが最初の一匹だったのである。 それからもうすぐ10年。 かつては長野県での記録が少なかったというこのカメムシも、今や我が家の庭に訪れる常連にまでなり、そこかしこでちらほらとその姿を見かけるようになった。 果たして彼らは以前から近くにいたのだろうか。 それとも単に私の目が彼らの姿を見つけることができなかったのか。 今となってはそれを確かめる術はなさそうである。

 

2006年7月28日 長野県諏訪郡 EOS20D EF100mmMacroUSM 1/250 f9 ストロボ ISO100

ベニモンマダラ

Zygaena niphona

昼行性のガにはチョウのように色鮮やかなものが多い。 そもそもチョウとガの間には決定的な相違点というものはないはずだが、それでも人間は無理やり区別しようとするからややこしいことになる。 どちらも同じように美しいのだから何もそこまでこだわらなくても…と思うのだが、何かを識別しようとするととにかく細かく分けたがるのもまた人の性のようである。

ベニモンマダラは初夏から夏にかけて、冷涼な地域の草原に見られるガだ。 緑がかった地色に朱色の紋といういでたちはよく目を引くが、分布は意外と局所的なようである。 この仲間は大陸で細かく種分化し、欧州ではコレクターも多いと聞くが日本ではあまり馴染みがない。 詳しいことはわからないが、ベニモンマダラも氷河期に分布を広げた大陸の忘れものなのだろう。

 

2006年7月16日 長野県諏訪郡 EOS20D EF100mmMacroUSM 1/50 f5.6 ストロボ ISO100

ヒメヤママユ

Caligula jonasii

ヒメヤママユに限らずヤママユガ科のガのオスは立派な櫛状の触角を持つ。

一見すると飾りのようにも見えるこの触角は、彼らが繁殖のパートナーを速やかに見つけるために工夫を凝らした造形美だ。

「機能美は造形美をも兼ねる」昆虫にはそんな言葉がぴったりとあてはまるパターンが多い。

ヤママユガ科の各種は秋に出現するものが多いが、ヒメヤママユもその中の一種である。

出現期も長く、普遍的に見られるとはいえその美しさは一級品。

彼らの姿が見られるようになると、いよいよ秋も本番。 来るべき冬へと向け、季節は足早に通り過ぎてゆく。

 

2005年10月10日 長野県諏訪市 EOS20D EF100mmMacroUSM 1/200 f11 ストロボ

キイロスズメバチ

Vespa simillima xanthoptera

毎年秋になると、どこそこでキノコ狩りの人がスズメバチに襲われた、という事件が報道される。

ときには"恐怖の殺人蜂"などという恐ろしげなフレーズを付けて、いたずらに恐怖感を煽るような場合さえあり、そんな時には一虫好きとしてはちょっとムッとしてしまう。

確かにスズメバチ類は時に人の命を奪うし、恐怖の対象であることは間違いない。

けれども、本来ハチというのは余程のことがない限りは人を刺すようなことはないのだから、どうにも誤解を招くような報道は止めて欲しいと思ってしまう。

キイロスズメバチは数種あるスズメバチ類の中でも最も身近なスズメバチだ。

たとえオオスズメバチが住めないような小さな環境であってもキイロスズメバチは十分に暮らしていけるし、人家に営巣することも少なくない。

それゆえ刺傷被害も多いそうであるが、その事実もまた、現代人が野生生物との間合いの取り方を忘れてしまった証拠なのだろう。

2005年10月2日 長野県諏訪郡 EOS20D EF100mmMacroUSM 1/250 f7.1 ストロボ ISO100

セイヨウミツバチ

Apis mellifera

春一番から活動し始める昆虫というのにはどうしても目が行く。 中でもミツバチは動きが早くサイズも小さいので、冬の間になまった感覚を取り戻す練習には最適な相手だ。 もっとも私は動きものの撮影は苦手。 ワンシーズンに撮れるミツバチのまともなカットは片手で足りる位だから、こちらがチャレンジさせてもらっていると言った方が正しいのかもしれない。 うららかな春の日差しの中、ウメに集まるミツバチやテングチョウを相手に転げまわるのが最近の春の過ごし方である。

 

2005年4月9日 長野県諏訪郡 EOS20D EF100mmf2.8MacroUSM 1/250 f8 ストロボ ISO100

ミンミンゼミ

Oncotympana maculaticollis

羽化は昆虫を象徴する瞬間だ。数ある他の生物でも、この羽化という瞬間を共有するものはない。 また、翅が生えることによって、あるいは成虫の姿になることによって、その虫生活様式はガラリと変わる。 それゆえ羽化というものは非常にドラスティックな変化を垣間見る刻でもある。 だがその一方で、羽化の最中は体も柔らかく、動くこともできないから、当の本人にとっては非常に危険な時間帯ともいえる。 だから昆虫の羽化は日没後、あるいは早朝といった時間帯に集中し、観察も容易ではない。

セミ類の羽化はそうした中でも比較的観察しやすいものだ。 あの茶色いゴツゴツした幼虫の中から薄緑色をした成虫が出てくるというのも分かりやすいし、お手軽に感動できることうけあいである。 ヤブカに刺されないようしっかりと虫よけを塗ってから、夕涼みがてらにセミを探してみるというのもまたオツなものである。

 

2005年8月22日 長野県諏訪郡 EOS20D EF100mmMacroUSM 1/250 f9.0 ストロボ ISO100

アワフキムシの一種

Aphrophoridae sp.

庭に置かれていた鉢植えの茎にアワフキムシの幼虫を見つけた。 普段は表から幼虫の姿が見えることは殆ど無いのだが、このときは珍しく幼虫の姿がむき出しになったままだった。 いつも泡を被ったままの彼らだが、不思議に思うのはどうやって呼吸をしているのだろうかということだ。 この画像では思いっきり水分を被っているようにしか見えないのだが、彼らは苦しかったりはしないのだろうか。 見ているとそんな余計な心配もしたくなってくる。

 

2005年6月14日 長野県諏訪郡 EOS20D MP-E65mmf2.8 1-5×MacroPhoto 1/100 f11 ストロボ ISO100

ニイニイゼミ

Platypleura kaempferi

その年初めてのニイニイゼミの声を聞く度に、もうそんな時期になったのかと感じる。

季節感をどのような形で感じるかは人によって異なるだろうが、私にとって夏を強烈に感じさせてくれるのはこのセミの声だ。

あの脳髄の奥にまで浸透してきそうな"チィー…"という声があれほど心地よく聞こえるのは何故だろうか。

小学生の頃、山梨まで父親にクワガタ採りに連れて行ってもらった。

現地に着いて車のドアを開けると、諏訪の空気とは明らかに違うムワッとした空気が体にまとわりつき、森全体から響いてくるようなニイニイゼミの声に包みこまれる。あの時感じた、なんとも言えない陶酔感。

今だってそれは変わらない。初夏になって、夕暮れの雑木林へと向かう。

そこで私を迎えてくれるのは、あの懐かしい空気と、無数のニイニイゼミが奏でる唄なのである。

2005年7月18日 山梨県北杜市 EOS20D EF100mmf2.8MacroUSM 1/160 f2.8 ストロボ ISO100

マダラカマドウマ

Diestrammena japonica

昆虫で人気があるものといえばチョウやトンボ、カブトムシ辺りだが、その一方で嫌われ者の類も結構多い。 例をあげるならばゴキブリやハエ等がすぐに思い浮かぶが、カマドウマの仲間もどちらかといえばあまり好かれる虫ではないだろう。 ではなぜ嫌われるのか。前述の例を見ればわかるように、主な嫌われ者達は衛生害虫であると同時に接点も多い。 カマドウマも然り。 「ベンジョコオロギ」とはよく言ったもので、じめじめした湿っぽい所に多く、更には突然跳ねるというあたりがどうにも受け入れられ難い要素らしい。 また、やたらと長い脚や触角もウケが悪い。 ならばと「脚と触角を取ったらエビチリのエビじゃないか」と発言をしたら、周囲から顰蹙を買った。

かく言う私も以前はあまり好きではなかったが、翅を退化させたキリギリスだと認識するようになってからはだいぶ平気になったし、 あの長い付属物も逆光によく映えるものだ。

好き嫌いというのはまあ人それぞれだが、たまにはそういうことを忘れて"竈馬"という風情のある名をつけた先人を見習って観察してみるのもまた面白そうである。

 

2006年3月11日 長野県諏訪郡 EOS20D EF100mmf2.8MacroUSM 1/160 f11 ストロボ ISO100

エダナナフシ

Phraortes illepidus

秋の夕暮れ、自宅への帰路を急ぐ。 暗くなっていく風景の中で、鮮やかなコブシの実が目に留まった。 コブシの実はゴチャゴチャとしてあまり綺麗には思えないが、そこから赤い中身が見えている様子はいかにも妖しく、不思議な魅力がある。 いくつか実を見て回っていると、その上にエダナナフシの姿を見つけた。 コブシの実に気づかなければ、彼女の姿もまた見逃していたに違いない。

さすがに時期も時期、元気がなくややくたびれている様子に少し寂しさを覚える。

風景が色づく中、今年もまた確実に、昆虫の季節は通り過ぎていく。

 

2005年9月25日 長野県諏訪郡 EOS20D EF100mmMacroUSM 1/60 f3.5 ストロボ ISO400

カンタン

Oecanthus indicus

ルルル………というカンタンの鳴き声が昼から聞かれるようになると、そろそろ秋も終盤に差し掛かったのだなと思う。

その優しく繊細な鳴き声から"鳴く虫の女王"とも言われ、その声を楽しむ会なども催されていると聞くが、けっして珍しい昆虫ではなく、むしろ数が多い部類に入ると言っていいだろう。 特にクズのマント群落がお気に入りなようで、そんな環境があれば大抵のところにいるし、毎年我が家の裏庭にもやってくる常連さんだ。

カンタンの名の由来は「邯鄲の夢」という中国の故事から取られているそうだ。 確かにあの鳴き声は優しく儚げな感じがするからなるほど…と納得してしまいそうになるが、鳴き声一つを取ってそこまで連想できる人はそうそういまい。 むしろ、そこまで思いを広げてしまう人は、余程想像力逞しい人であったのではなかろうか、そんな風についつい訝しがってしまうのである。

 

2006年10月8日 長野県諏訪郡 EOS20D EF100mmMacroUSM 1/1250 f2.8 ISO400

クモガタガガンボの一種

Chionea sp.

雪虫という呼び名がある。大方その正体はアブラムシの有翅虫であるが、場合によっては雪の上で見られる昆虫の総称として使われることもある。 新潟で雪の上に出てくるトビムシの仲間をそう呼んでいたのを聞いたことがあるが、クモガタガガンボもまたそうした雪の上で見つかる虫と言っていいだろう。 ただし、雪がなければいないというわけではないようで、ただ単に雪の上に出てきたものが見つけやすいから…というのが実情のようである。

まだ雪が降る前、ブナ林の中でコブヤハズカミキリを探したときのこと。 首尾よく採餌中の個体を見つけて撮影したが、その時地面に置いておいたザックの上にクモガタガガンボが登ってきていたのをみて驚いた。 まだ細かい分布はおろか、分類すら進んでいない仲間ではないかと思うが、冬場にピットホール等を仕掛ければ案外いろいろな場所で落ちそうな気もする。

 

2006年1月4日 長野県諏訪市 EOS20D MP-E65mmf2.8 1-5×MacroPhoto 1/200 f9 ストロボ ISO100

トビムシの一種

COLLEMBOLA sp.

3月半ば、まだ冬枯れの林道をしばらく歩いているうちに小用を足したくなって立ち止まる。 用を足している途中、近くの斜面からサラサラと土が落ちる音が聞こえてきた。 四足でもいるのかと目を凝らしてみるが、動くものの気配は感じられず、土が崩れている様子もない。 しかし、絶えず音は聞こえ続けてくる。 足もとへ目を落とすと、黒い塊が落ち葉の上に点々と乗っているのに気づいた。 音の正体は、無数のトビムシたちが歩きまわる音だったのだ。

一枚の落ち葉の上にこの数。 しかも、音は斜面全体から聞こえてくるのだ。 全部で一体どれほどの数になるのだろうか。 天文学的な数字に軽い目眩を覚えながら、小さな森の住人たちに視線を向ける。

トビムシ類は原始的な昆虫であるとされているが、そもそも昆虫として分類するべきか現在も議論は続いているようである。 だが、原始的と言われているものであっても、その役割は非常に重要な部分を担っている。 木を、葉を、生き物の死骸を、土へと戻す分解者。 この小さな体から受ける恩恵には、計り知れないものがあると言っていい。

 

2006年3月15日 長野県岡谷市 EOS20D MP-E65mmf2.8 1-5×MacroPhoto 1/250 f9 ストロボ ISO100

コマダラウスバカゲロウの幼虫

Dendroleon jesoensis

日陰、沢沿い、そういったところにある岩などが緑色の地衣類に覆われているところがよくある。 そんなところを見つけるとついつい探してしまう虫だ。 大抵のものは窪みや割れ目などにすっぽりとその身を隠し、大きなキバを180度に広げて獲物となる小動物が通りかかるのを待っている。 上手く擬態をしている個体を見つけるとよくもまあこれほどまでに地衣類を身につけたものだと感心してしまうが、その地衣類をどうやって体に着けるのかまではよく分からない。 おおよそ可動部分が届きそうに無い頭頂部にまでしっかりとつけているあたり、自分でくっつけているのだとも思えないのだが…。 自分の中では未だにそんな部分が引っかかっている。

 

2005年6月4日 長野県諏訪郡 EOS20D MP-E65mmf2.8 1-5×MacroPhoto 1/250 f9 ストロボ ISO100

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